旅順港へ帰れ

遼寧省大連市旅順口区・日露戦争遺構

旅順と聞くと映画二〇三高地の主題歌(さだまさし)とか、坂の上の雲とか思い出します。この辺りがどんな場所かは義務教育で知っとけレベルです。

日露戦争最中、日本海や朝鮮半島の安定とロシア南下を防ぐ楔として遼東半島は重要な地域だったため激しい戦闘が繰り返され、その結果戦争遺跡や日本統治時代の建造物など今も多く残っています。

2009年まで、旅順は軍事エリアとして外国人の立ち入りが制限されていました。現在は開放されていますが、撮影対象によっては連行されるかもしれませんので気をつけましょう。

旅順市へのアクセスも容易になりました。地下鉄1号線の終点河口駅で降りるとホーム上で12号線に乗換でき、それが旅順方面への郊外電車として機能しています。大連の地下鉄は五カ国語のアナウンスが入ります。中国語、英語、日本語、韓国語、ロシア語で、東西国家の玄関口の雰囲気です。12号線はほぼ高架を走ります。沿線の開発区には学校やITオフィスなど新都市風の施設を誘致しているようです。

旅順駅付近で貨物鉄道線が寄り添います。これが1900年初頭にロシア帝国によって敷設された東清鉄道の一部です。今電車で走ってきた半島南ルートには丘陵が出張っていて高低差があります。対して北側は平坦ですので、当時の鉄路はこちらを選んで敷設されました。
駅のそばに貨車が数本停まっているだけの水師営駅があります。旅順攻略後ここ水師営で乃木将軍ステッセルによる会見、そしてロシア側が撤退していくわけですが、その舞台となった場所も観光地となっています。ただ中国人のレヴューを見ると、「ただ復元された建物があるだけなのに40元もとりやがる」と辛辣でしたので見送りました。

地下鉄旅順駅は郊外に作られており周囲は荒地、畑地、ニュータウン、といった構成で鄙びています。とりあえずタクシーと交渉して近くの松樹山砲台を見に寄ってから旅順日露監獄に行ってもらう事にしますがやはり語学レベルの問題…というかそんな砲台行くやついないからか、中々理解してもらえません。

何度か誘導し意図を理解させ、見学路の入口で下車。ここはロシアが旅順市街を守るために築いた要塞の一つです。隣にある東鶏冠山の要塞の方が有名かもしれませんが、これら二つが街の北側を防御するため睨みを効かせていました。高台には穴を穿ったりコンクリで固めた塹壕や銃眼が作られ、登ってくる日本兵に向けて機関銃を撃ちまくりました。

本当に、当時はまだまだ中世の戦法の名残が残っており人を消耗品のように投入した人海戦術が主でした。ロシア軍の花形はコサック騎兵という時代ですから空爆なぞ想像だにできません。タクシーで登ってきた坂道も歩兵が屍を乗り越えながら登ってきた道ですし、この狭い塹壕もその周囲も血で血を洗う肉弾戦の舞台だったわけですが、いま陽光差し込む洞内は静かです。

駐車場には日本軍がこの戦いに投入して成果を上げた「28サンチ(cm)砲」のレプリカが展示されていました。この大砲はイタリアから輸入され、それを参考に自国生産を始め1887年に正式投入が開始されたものです。旅順戦の終盤、勝利を決定づける役目を果たしました。

タクシーへ戻り監獄へ行ってもらい、到着後とりあえず飯を食います。丁度春節が始まったところで休んでいる店も多い中、監獄の向かいの食堂が開いていました。前夜大連で海鮮料理を食べましたが、開いている店は春節価格という設定MAX状態でお高めでした。しかし職員に日給3倍かかる期間なので仕方ありません。

中国の東北地方の郷土料理「鉄鍋炖」は、竈に据えた大きな鉄鍋を囲む鍋料理です。入口にある冷蔵庫に入っているチョウザメぽい魚や鯉などからメインの具を選びます。今回の我々は豚肉を具に選びました。竈に火を入れ、たっぷり20分以上掛けて煮込みます。

ここは1902年にロシアの監獄として建造されました。旅順での戦闘が激しくなった1904年頃には野戦病院として使用されました。ロシアが旅順から撤退した後は日本が監獄として使用し順次拡張されました。第二次大戦終戦により放棄されましたが、1970年に大連市が修復を決め、今はいわゆる抗日を伝える愛国主義の啓蒙施設という肩書になっています。

食事に時間を取られてから監獄へ行ったので時間ギリギリでした。冬季は15時半閉館の上、基本的にガイドが先導して解説していくので15時前でも急かされました。そして入場した途端、入口の鉄柵が閉められました。まるで罪人の扱い。

ハルビンで伊藤博文を暗殺した安重根はここに収監され、その独房も参観スポットとして説明板があります。事務室や牢獄や拷問用具など、当時の様子が覗えますが拷問用具はなんかわざとらしい気がします。

敷地の端には処刑室があり、かの安重根を初め、多数がこの絞首台の露と消えました。

さて次はメインの二〇三高地に向かいますがこの時間から行って開いているのかがやや不安です。

旅順日露監獄
大連市内(中山広場)から地下鉄2号線西安路駅乗換1号線終点河口駅で12号線へ乗り継ぎ旅順駅へ 運賃9元 そこから路線バス旅順7系統、203系統、204系統で「元宝坊」バス停下車すぐ 運賃1元

旅行時期:2018年春節