そこは北朝鮮

遼寧省丹東市・虎山長城

万里の長城は中国どころか世界を代表する巨大建造物群です。それぞれの時代がそれぞれの長城という線を引きました。見識の浅い歴史観ですが長城の外は異民族の土地であると考えていますので、長城の場所はその時の中華王朝の勢力図を示すものと思います。

では長城は東西どこまで続いているのでしょうか。数十年前は西端が甘粛省嘉峪関で東端が河北省秦皇河の山海関と考えられていましたが、明の書物にはすでに《東は鴨緑江から始まり西は嘉峪関に至る》という記述もありました。ついに1990年代初めこの地から長城の遺跡が発掘され、専門家の実地調査の末「ここを東端とする!」事になりました。

真冬の丹東は暖冬といえども鴨緑江に流れる氷塊を見れば寒さがわかります。ここは断橋という観光スポットです。旧日本軍が架けた鉄橋が2本並んでおり、朝鮮戦争の際に補給線を絶つため米軍から爆撃を受けました。もう一本は戦禍に耐え現在に至っても使用に耐える頑丈さは中国人も「日本製スゲー」と感じています。

将軍様はその鉄橋を渡って外遊に出かけていました。丹東はその手のニュースが流れる時によくテレビに映りますので、なんか危険で陰鬱な国境地帯というマイナスイメージを持つ人も多いのですが、来てみると港湾都市として発展した街は近代的で巨大です。まあもちろん軽い気持ちで写真撮りまくったりしてはいけません、「ここ軍事施設!」という但書がある地域もありますから。

さて虎山長城は鉄道駅から10kmほど北の鴨緑江沿いにあります。中国のサイトで調べたところ、駅前のバスロータリーから2時間に1本程度の路線バスがあるようになっていました。

しかし、探せど探せど乗るべき系統のバスがない! で、気持ちばかり焦ってしまいましたが、友人の機転で近所に長距離バスターミナルが見つかり、行ってみると事前の予定と違う郊外バスがそこに停まる事が分かり、行きは何とかなりました。

バスは鴨緑江沿いの道をボチボチ走ります。直線距離は10km程度ですがまず街中をくまなく回るので案外時間がかかりました。途中降車なので到着のタイミングを読むのに神経を使います。観光客が大勢降りる停留所であれば周りについていけばいいんですが、どうやら観光客は乗っていません。正門が見えるや否や、とにかく降りる事を全力でアピりました。

バスを降りる際「開いてねえなあ」の会話が耳に入りました。まさか…ここまで来て? 確かにこの大きな門に全くひと気がありません。チケット窓口も閉まっています。ただ友人が遠くの城壁に観光客が見えるといいます。私にはただの幟にしかみえませんが…

閉まっているチケット窓口に「いまココ開いてない、北門から入る」という張り紙がしてありました。という事でそちらへ移動し無事入城する事ができました。
チケットには物々しく警告文が貼ってあります…「国境の川辺やあっちの領土に入るなよ。北朝鮮と外交問題を引き起こしてもお前の責任ダァーッ

この長城が建造され始めたのは明の時代1469年です。当時の主目的は女真族(満族)の進出を防ぐためのものでした。1616年に女真族の愛新覚羅・努爾哈赤(アイシンギョロ・ヌルハチ)が後金を建国し明統治から離反した後はその勢力拡大に合わせて長城の多くが解体されました。

とりあえず山上に見える砦を目指します。ここは割とマニアックな観光地になるんでしょうか、旧正月連休なのにほぼ客がいません。もう夕方だからか、旧正月は家でのんびりするのか。多分季節の問題と思います。鴨緑江が凍結しやすい冬場は遊覧船など運休ですし。

路面も日陰は凍結していますし、一部には細くて急な石段もあります。危ないと言うとその通りですが、海外には自己判断が原則の場所が一杯あります。

北朝鮮。冬の農地だとは言えひしひしと荒涼感が伝わってきます。
水量の多い時期はこの中州をボートで一回りして対岸を冷やかす簡易北朝鮮ツアーが人気です。

この寒空に煙突から煙ひとつも見えません…人間は何人か観察できたのですが、本当にここに住民がいるのか疑わしいものです。この場面に現れる人間はみな対外アピール用の俳優なんでしょうか?

山を下り、もう一つのインスタ蝿スポットに行ってみました。ここは石碑のとおり一歩跨げば北朝鮮という最接近ポイントです。

友人はなぜだか来たがりませんでしたので一人でやって来ました。職員不在の土産物店とややゴツい防犯カメラ以外何も見当たらず、誰もいません。我々はあしたのジョーになるチャンスです。または秘密裏に連れていかれるピンチです。ずっと向こうに異様にペンキが鮮やかな国境監視小屋が見えます。

よく見ると人がいる!

身動き一つ感じられませんのでもしかして人形なのか…?
帰り際、突然茂みのプレハブ小屋から土産物店の店員が背後に現れたのには金玉が縮み上がりました。

閉園時間が近づきましたので街へ帰る事にします。駐車場を歩いていると白タク運転手が「もうバスは無くなった」などと声を掛けてきます。よくある引っ掛け手段です。信用ならないので事務所のお姐に尋ねると「バスあるアルよ」。やはりここまで路線バスは来るようです。でもちゃんと停留所のポールや系統図があるのに、バスが来る気配が全くありません。せめて来る時に乗った郊外バスでも通りかかれば手を振って停めるつもりですが、そもそも時刻を知りません。

どんどんと日が落ちていくので、ちょうど通りかかったオッサンの誘いを受け50元で市内まで行ってもらう事にしました。後で中国の旅行サイトで見ると、片道車代30元くらいだそう。またやられた。

オッサンは「バス路線はあるが今はない」と訳のわからない事を言ってますが、もうどっちでもいいです。会話のついでに晩飯におすすめの店を教えてもらいそこまで行ってもらいましたからwin-winです。本当はショーを見せる北朝鮮レストランに行きたかったんですが、この店の冷麺とマッコリはかなりの高レベルでした。

虎山長城景区
市内からの路線バスは1路線存在するはずなのだが。運賃5元。
丹東駅前広場 5:50 6:50 8:35 9:50 10:50 12:40 14:20 16:30
虎山長城 6:20 7:30 9:30 11:00 12:00 13:00 15:20 17:10
その他、駅対面のバスターミナルから出る宽甸県方面への郊外バスが長城停留所に停まる。

旅行時期:2018年春節