北京鉄道局・T110列車
2020年現在、北京〜上海約1,500km間は高速鉄道が時速350km走行で4時間半を切る時間で走っており、G1という1番を冠した列車が設定されている事からわかるように中国最重要路線です。Gは高鉄、Cは城際、Dは動車、以上が「電車型」、Zは直達、Tは特快、Kは快速、あとY(遊覧)やL(臨時)もあります。数字のみの列車は慢車(普通)です。これらは機関車が牽く「客車型」です。
数は減りましたがこの区間は在来の客車寝台列車も数本走っています。その中で花形と言える列車はT109/T110でしょう。そして現在は頭文字Dのいわゆる寝台新幹線も走っていますのでいずれ乗車してみたいと思います。

高速鉄道の多くが上海虹橋駅と北京南駅という新ターミナル同士を結ぶのに対しT110列車の重要な点はまず古式ゆかしく上海駅と北京駅を結ぶという点です。そして首都である北京鉄道局運行列車という点も重要です。
数年前は代售点という小さな切符販売窓口があちこちの街角にあり、手数料5元払えば駅と同等の発券サービスができました。日本の都市圏であれば数kmごとにみどりの窓口がある駅があるので必要性がないですが、上海中心街の国鉄駅は本駅・南駅・虹橋駅だけです。


現在は徹底的な電子化により購入は国鉄サイトやアプリまたは旅行アプリで簡単に、更に身分証絶対主義による個人情報把握のおかげでチケットレスの世界となり、その流れの中で代售点は一気に数を減らしています。説明が長くなりましたがこの時は近所の代售点で出発当日の午前中、幸いにも空席を取れました。今回、初めて中国で寝台列車に乗るビギナーなので軟臥(一等寝台)にしときます。発車は18時過ぎ、北京到着は明日10時過ぎです。
編成の大多数は「硬座(二等座席直角椅子)」「硬臥(二等寝台三段ベッド)」「軟臥(一等寝台二段ベッド四人個室)」「食堂車」で構成されます。個室といってもベッド売りなので相部屋が基本で、老若男女の境目はありません。また列車によって二人部屋でトイレ洗面所付の高級軟臥が連結されているものもあります。しかし一人で乗ると一対一の相部屋ですから、普通は避けます。T110列車にも連結されています。
高速鉄道で上海虹橋駅を利用した身からすると、上海駅前の広場でたむろする出稼ぎ労働者群に上海シティらしからぬ雰囲気を覚えましたが、どこの国でも土台を支えているのはこのような人々です。彼らは肥料のでかい麻袋に何かをパンパンに詰めて引きずったり、一斗缶二つを天秤棒で担いだり、日本人から見るとフリーダムな乗車です。彼らと同室になりたくねえ、と考える人もいるでしょうがご安心下さい。彼らは十中八九「硬座」の切符です。
中国で列車に乗るためには身分証明と荷物検査が必要です。駅前に列をつくり順に身分証チェックを受けて建物に入り、すぐに荷物のX線検査など空港と同じような検査を受けて初めて構内に入れます。なので例のフリーダムな荷物も中身に問題さえなければ列車に載せられます。

待合室(候車庁)の番号は切符に指示されていますのでそこで待機しますがもう椅子はほぼ一杯です。改札口はいくつかありますのでハルビン行きなどのお客もこの部屋にいます。

シールなのがちょっと安っぽいですが「上海―特快―北京」の表示が気持ちを盛り上げます。車体の色は色々と変遷をたどりましたが伝統色は緑色で「緑皮車」と呼ばれますが、現在この呼び方は古臭いもしくは懐かしいというイメージを抱かせるものになっています。
さて、室内には私より少し年上っぽい韓国人顔の夫婦がいましたが、奥さんの方がじーっと私の顔を見ています…私も明らかに異国人だと気付かれました。
実際のところ彼らは朝鮮族の中国人でした。そして偶然にも数日前に日本旅行から帰国したようで、私の日本人っぽさに気づいたようです。残念ながら私の中国語レベルが低く満足な交流は厳しかったのですが、それでも「アレ食えコレ食え接待」を受けて腹いっぱいになりました。

車掌が検札に訪れ、切符を預かり代わりに席番のプラスチックカードをよこします。フォトアルバムみたいな手帳へ席番に合わせ切符を保管し、降車駅に近づくとカードを切符と引き換えに来ます。なんかアナログっぽいですが、少なくとも降りる駅の手前で一度お客の所に来るという事です。つまり乗り過ごす失敗はまず起こりえないという事ですね。1両に一人の乗務員をつける事ができる労働体制の為せる技ですが、日本では真似できない重厚なサービスと言えます。愛想は置いといて、です。
途中いくつか停車します。残りのベッドに女子大生くらいの子が乗ってきましたが、我々と会話する事もなく上のベッドでずっとスマホをいじってました。コレ食え接待が21時頃お開きになると、夫婦は早々に寝支度に取り掛かりました。乗車の楽しみがある私と違い、使い慣れた人はさっさと寝ますね。私は散歩にでかけます。


こちらは食堂車の様子です。ここで食事をする腹づもりでしたが例のコレ食え攻撃により今回は諦めました。

三段ベッドの硬臥。これは発車前の写真なので空いているように見えますが満席です。

デッキに灰皿。2020年現在、在来列車の禁煙化も進み撤去された車両が増えています。

洗面所。なんか昔の日本の列車みたいです。ちなみに大事なトイレ事情は撮影し忘れました。
また各車両の端には自由に使える給湯器がありお茶やカップ麺に重宝します。
停車、発車、加減速の度にガツンと揺れが起きますので熟睡できる環境ではありませんが、以前日本のブルートレインに乗った時もこんな感じでした。何度目かのガツンのあと列車がやたら徐行している事に気づき外を覗くと辺り一面大雪! 11月22日の深夜なんですが、20〜30cmは積もっているようです。場所は江蘇省と山東省の境目くらいだったと思います。
目が覚めると駅に停まっています。天気はすっきりと回復しているようです。駅名は沧州、午前7時前に発車しているはずがすでに8時前、雪の影響で1時間くらい遅れが出ていました。
天津西駅を出たら後は北京駅へノンストップです。PM2.5など嘘のように天気が素晴らしいですが、見たところ寒そうです。

列車を降りると冷気が刺さります。およそ1時間遅れで北京駅に到着。同室の夫婦と再見して駅を出ました。いかにも中国共産党の文化が香る建築物の北京駅。お洒落じゃないけど嫌いじゃないよ。
旅行時期:2016年秋
T110列車
2020年現在:上海17:57発-北京10:08着
硬座177.5元 硬臥304.5元 軟臥476.5元 高級軟臥879.5元